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講義資料
日本酒の基礎知識
1. 日 本 酒 製 造 の な が れ
上記長方形で示したのは原料・中間製品・製品。楕円内のものは作業工程。
1)酒 造 米
大粒で中心部分の乳白色をした心白が大きい「酒造好適米」が用いられる。酒造りには、表面に近いところにある脂肪分、蛋白質等 糖化・発酵に有害なものをできるだけ取り除いて良質の澱粉質を使う。
「山田錦」「五百万石」「美山錦」等が有名。
2)麹・酵母の役割
・ 麹 菌 - 澱粉を糖分に変える。生成される酵素等が味に多く関わる。
日本酒は黄麹。焼酎は白麹、泡盛は黒麹。
・ 酵母(菌) - 糖分をアルコールに変える。香り成分の生成に多く関わる。
3)酒 母
(モト、シュボ)
※ 「もと」は、とり(酉)扁に元という字、「酉元」を一字にした形だが、漢字表にはないので、
以下「酒母」またはひらがなで表記する。
酵母(菌)を増殖させる工程で、小さめのタンクで米、麹、水が混ぜ合わされ造られる。酒母は、酵母(菌)が雑菌に侵されないように、大量の乳酸を生成・培養した、いわば酵母(菌)の培養液。つくり方によって大きく次の二種類に分けられる。
・生 も と 系 -
生もと
(キモト)
…
天然の乳酸菌
など微生物を取り込み自然に乳酸が培養されることにより雑菌の増殖を抑えて、蔵つきの酵母菌等で純粋な清酒酵母を培養する、
手造り
で作る酒母。出来上がりまで25日~1ヶ月かかる。
山廃もと(=山卸
やまおろし
廃止もと)
(ヤマハイモト)
… 基本は生もとと同じだが、物料(米、麹)をすり潰す作業(=もとすり=山卸し)を省略した酒母。麹から溶け出した酵素の力で米が溶けることを活用。出来上がり期間は生もとと同じ。
・速 醸 系 -
速醸酒母 … 仕込の初期に乳酸(乳酸菌ではない)を添加し雑菌の増殖を抑え、その後純粋培養した酵母を大量に添加する酒母。これが今の日本酒づくりの主流。10日~2週間でできる。
高温糖化酒母 … 高温で糖化し(「甘酒」になる)、急冷して乳酸を添加した後、さらに温度を下げて、酵母を添加する方法で造る酒母。でき上がりまで1週間ですむ。
4)三段仕込み ……
醗酵(醪造り)を行うに際し酵母が十分に働くようにするため、酒母に、蒸米・麹・水を3回に分けて入れること。酒母に使う物料は全体の量の1割弱、残りを次の3段階に分けて仕込む。
初日「初添」(2日目は「踊り」=休み):3日目「仲添」:4日目「留添」 ≒ 15:25:50
発酵槽の中では、並行複醗酵が行なわれ、醪が生成される。
* 並行複醗酵 ― 麹菌による米の澱粉の糖化と、酵母(菌)によるそこでできた糖の
アルコール化を同じ器(槽)で同時に行う、日本酒独特の醗酵法。
2.日 本 酒 の 種 類
…… 別表
日本酒の分類
参照。
従来の級別は、特級が89年4月、1級・2級は1992(平成4)年4月に廃止。 '90年11月の「清酒の製法品質表示基準」(国税庁)で製法、原料等による分類に変わる。
1)特 定 名 称 酒
精米歩合、製造方法、使用原料、香味および色沢等の一定の条件を満たした日本酒。
・本 醸 造 酒 ・純 米 酒 ・特別本醸造酒 ・特別純米酒
・吟 醸 酒 ・大 吟 醸 酒 ・純米吟醸酒 ・純米大吟醸酒
2)その他の一般の酒=普通酒
「特定名称酒」および「増醸酒※」以外の清酒。
すなわち、①精米歩合70%超、②醸造アルコール添加10%超、③糖類等を添加、④色沢・香味条件の不備、のいずれかに該当する酒。
アルコール添加量は白米1トン当たり500リットル程度(アルコール分30%)が普通。
※ 増醸酒 - 多量のアルコール、砂糖・蔗糖・ブドウ糖、乳酸・クエン酸・リンゴ酸等で調味をし、増量した酒。三増酒(三倍醸造酒)ともいう。
3)いろいろな酒
原 酒 …… 醪をしぼったあと一切加水していない清酒、アルコール度数18~20度。
生一本 …… 自己の単一の蔵で醸造された純米酒。
生 酒 …… 醪をしぼったあと一度も加熱処理しない酒。
常温生酒 …… 上記で精密濾過し酵素活性をほとんどなくしたもの。
生貯蔵酒 …… 醪をしぼったあと加熱処理せず低温貯蔵し、瓶詰時に一度だけ
加熱処理した酒。
生 詰 …… 火入処理をして貯蔵・熟成後、そのまま瓶詰し蔵出しするお酒。
にごり酒 …… 'おり'が残り白濁した日本酒。搾ったままで「おり引き」(おりを沈殿させ
上澄みをとる)をしないもの、上澄み酒をとった後の酒等いろいろある。
ドブロクとは違う。
貴醸酒 …… 留仕込みで水の替わりにアルコール分9%程度の清酒を使う。熟成した
感じの酒になる。
凍結酒 …… 新酒(生酒)を直ちに氷点下20℃以下で凍らせ、氷点下5~10℃で
保存したもの。
古 酒 …… 冬造りの酒が梅雨を越し、新酒造年度入りの7月以降出荷する酒。
大古酒 …… 2年以上貯蔵した酒。低温で3~10年程度の長期熟成を行うもの、とも。
秘蔵酒 …… 低温で5年以上10年程度までの長期熟成を行う。
4)日本酒の酒質データ
① 日本酒度 …… 15℃の酒の比重。糖分等が高い酒は比重が重くなる。
+(辛口)、-(甘口)を数字で表示。±0 でほぼ中口。
② 酸 度 …… 乳酸・リンゴ酸・コハク酸などの有機酸の量。酸度が高いと濃く感じ、
また辛く感じる。1.2~1.4程度が普通。
③ アミノ酸度 …… グルタミン酸・アスパラギン酸、ロイシン・チロシン・アルギニン
などのアミノ酸の量。うまみやコク・苦みに影響。1.5程度が普通。
吟醸酒等上級酒は総じて1.0~1.3程度と低い。高いと雑味が増したり
重たく感じることがある。
④ 使 用 米 …… 酒造好適米等の種類。
⑤ 精米歩合 ……精白した白米の、元の玄米に対する割合。何パーセント残したかを表す
数値(重量比)。
⑥ アルコール(酒精)度 …… 12度(生酒・生貯蔵酒)から19度程度(原酒・秘蔵酒)まで。
通常の酒は14~16度が多い。
⑦ 使用酵母 …… 日本醸造協会・醸造試験場などが配付するものや、酒造会社の蔵つき
の独自の酵母がある。
3. 酒 の 味
1)五 味( 甘・辛・酸・苦・渋 )のバランス
深 味・濃 味・芳 醇 味・うまみ・ふくらみ・極(ゴク)味。
甘・辛・ピン。
甘 口・辛 口 ―日本酒は糖度等が高いと比重が高く、日本酒度計は(-)を指す。
(-)が甘口、(+)が辛口。ただし、甘辛は感覚的には酸度の影響も大きい。
2)利 き 酒
15℃(いわゆる常温)の酒を用いる。
利き酒の時は、整髪料、化粧品、タバコなどの匂いは厳禁。
① 色・にごりを見る。透明度、サエの点検。利き猪口(チョク)の蛇の目で見る。
透明なグラスで白紙をバックにしても分かる。
② 香りをかぐ。 上立香(うわたちか)という。
③ 口に少量含み、口中香(こうちゅうか)をかぐ。
④ 味を見る。五味を見るため舌の全面に酒をまわす。
⑤ 吐き出した後の口中の後味をみる。
ただし、素人の利き比べのときは、飲みこんでもいいと思う。
酒はもともと飲むものだし、喉越しの良さは酒の大事な要素だから。
上記①~⑤を他人に分かる言葉で表現する。
「うまい・まずい」「好みだ・嫌いだ」は、利き酒ではまったく意味がない。
4.お酒と料理との相性
1)甘口か、辛口か
甘い料理には … やや甘口
塩辛い料理には … 辛口
辛い料理には … 辛口
2)濃い酒か、淡い酒か
味の濃い料理には … 濃醇
薄味の料理には … 淡麗
脂っこい料理には … 軽い
淡白な料理には … 淡麗
3)お燗か、冷用か
熱い料理には … ぬる燗・適燗
冷たい料理には … 常温・冷酒
乾いた料理には … 常温・冷酒
汁っぽい料理には … ぬる燗・適燗
5.お酒の温度
(いろいろな分類、言い方があるが細かく分ける意味は少ない)
冷 酒 5~15℃
常 温(ヒヤということも) 15~20℃
ぬる燗(人肌燗) 40℃近辺
適 燗(上燗) 45℃~50℃程度
熱 燗 55℃程度~
※ 「冷酒」「冷用酒」は酒の種類ではなく、おいしく飲める推奨温度が低いものをいう。
「常温」は、季節によりたまたま室温でいい場合もあるが、概念が違う。
6.保管について
日本酒は、製造・貯蔵過程で防腐剤をまったく使わないため、ワインよりもデリケートな酒。
光、温度、時間、空気(酸素)による品質劣化には細心の注意を払いたい。特に日光に曝すのは厳禁。蛍光灯も良くない。
冷暗所、できれば冷蔵庫に保管したい。室温で1年置いたら飲もうと思わない方がよい。
7.酒を飲む人の心得
1)酔いの程度 ― 人により同じ量でも酔い方が違う。
(カッコ内は血中アルコール濃度)
① ほろ酔い期(0.05~0.15%) ほろ酔い初期 0.05%~0.10% ・もう少しならよい
ほろ酔い極期 0.10%~0.15% ・いいところ
日本酒3合まで、ビール大3本まで、ウィスキーシングル7杯まで
② 酩 酊 期(0.15~0.25%) ・この程度でよした方がよい
日本酒5合まで、ビール大5~7本まで、ウィスキーダブル5杯まで
③ 泥 酔 期(0.25~0.35%) ・水を飲んで早く寝た方がよい
日本酒7合~1升まで、ビール大10本まで、ウィスキーボトル1本まで
④ 昏 睡 期(0.35~0.50%) ・すぐ病院に連れていった方がよい
上記を超える量
2)酒の神様曰く
酒は神授の生薬。
服して心を乱さず、体を損ぜず、礼を失わず、和を破らず。
適時適量慎んで用ひざれば久しきに堪えざるべし。
―洛西総鎮守松尾大社服酒御守
3)六つの酒楽
酒を学ぶことを楽しみ、酒を知ることを楽しみ、
酒を選ぶことを楽しみ、 酒を料理とともに楽しみ、
酒を語ることを楽しみ、そして、酒を謳うことを楽しむ。
― 菊正宗「酒楽」
7.いい酒は‥‥‥
―― 米、 水、 麹、 酵母、 酒母。 杜氏。 酒造家の熱意。
―― あえて蛇足を加えれば、飲み手の酒への慈しみと味わう力。
以 上
☆☆
お酒の好きなあなたに贈る歌
☆☆
人の世に楽しみ多し 然れども 酒なしにして何の楽しみ 若山牧水
酒の毒しびれわたりしはらわたに あなここちよや
沁
し
む秋の風 ―〃―
かほどまで憂き目を見つつ わが酒はやめられぬものかと 呆れつつ飲む 吉井勇
世の中は色と酒とが
敵
かたき
なり どうぞ敵にめぐりあいたい 蜀山人
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