『親父の小言』 江戸版発見



●往来物研究の第一人者、小泉吉永氏が江戸版の『親父の小言』を発見された。貴重な資料の発見である。

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「親父の小言」 

今や、湯飲みや掛軸、プレートなど全国各地の土産物屋で目にする「親父の小言」。最近は、日本酒の銘柄にもなっているようである。ネット情報などでは、近代以降に成立したものと宣伝されているが、実は、この「親父の小言」のルーツは江戸時代に遡ることが、今回、初めて判明した。文面も多少違うが、今のところ、本書が「親父の小言」の最古本で、江戸時代に成立したことを示す確実な資料である。他に所蔵のない稀覯書のため、詳しく紹介しておこう。

 本書は、表紙とも3丁(6頁)の仮綴じ和本で、表紙にはタイトル「親父の小ごと 全」の刷外題、裏表紙には、「嘉永五年(1852)九月吉日、施主神田住」とあって、嘉永年間に江戸神田の篤志家某によって無料配布(施印)されたものである。作者と正確な成立年代は不明だが、少なくとも19世紀半ばの江戸には流布していたものであることは確実である。

 本文は、二段組みで、「○火はそまつにするな、○朝きげんをよくしろ、○朝はやくおきろ、○神仏をいのれ…」で始まる全81カ条で。最後に、教訓歌2首を付ける。

 江戸時代人、いや、江戸っ子の気概や気風を示す資料であり、今なお、多くの現代人に共鳴を与えているのも、我々の先祖から受け継ぐDNAに、その記憶が刻まれているからかもしれない。

 この原物を見た時は大変驚いたが、改めて、江戸時代の資料の膨大さと奥行きを感じた。「江戸」をなめてもらっちゃ困る…と言わんばかりの存在感を感じた次第である。

 以下に、全文を翻字しておく。読みやすいように、各条に番号を付け、適宜漢字をあて、必要に応じて*印で略注を施した。

■ 親父の小ごと

1.  火は粗末にするな

2.  朝、機嫌を良くしろ

3.  朝早く起きろ

4.  神仏かみほとけを祈れ

5.  身を大切にもて

6.  不浄をみるな

7.  身の出世を願へ

8.  不吉を言ふな

9.  家内笑うて暮らせ

10.  人に腹を立たせるな

11.  人に恥をかかせるな

12.  人に割を食はせるな *損をさせるな

13.  人に馬鹿にされていろ

14.  人を羨むな

15.  利口は利口にしておけ

16.  年寄りをいたはれ

17.  恩はどうかして返せ

18.  万事油断をするな

19.  女房の言ふ事半分聞け

20.  子の言ふ事は九ッ聞くな

21.  家業は精を出いだ

22.  何事も我慢をしろ

23.  子供の頭を打つな

24.  己が股をつねれ *わが身をつねって人の痛さを知れ

25.  たんと儲けて使へ

26.  借りて使ふな

27.  人には貸してやれ

28.  女郎を買ふな

29.  女房を探せ

30.  病人は労いたは

31.  難渋な人には施せ

32.  始末をしろ *無駄遣いをするな

33.  生き物を殺すな

34.  鳥獣とりけだものは食ふな

35.  年忌・法事をよくしろ

36.  親の日は万事慎め *親の年忌・命日には謹慎しろ

37.  義理を欠くな

38.  子供はだまかせ *だまくらして上手に扱え

39.  女房に欺されるな

40.  博奕をするな

41.  喧嘩をするな

42.  大酒を飲むな

43.  大飯を食ふな

44.  判事はんごとはするな *印判を押す=保証人になるな

45.  世話焼きになるな

46.  門口かどぐちを奇麗にしろ

47.  三日に氏神へ参れ

48.  晦日に内を掃除しろ

49.  貧乏を苦にするな

50.  火事の覚悟をしておけ

51.  火事には人をやれ、内を守れ *出火の際は消火要員を出す一方で家も守れ

52.  風吹きに遠出をするな

53.  火事には欲を捨てろ

54.  火口箱ほくちばこを湿すな *火打ち石などが入った道具箱を湿らすな

55.  水を絶やすな

56.  塩は絶やすな

57.  戸締まりをよくしろ

58.  夜更けに歩くな

59.  寒さを凌げ

60.  暑さも凌げ

61.  泊まりがけに出るな

62.  高見たかみへ登るな *高見の見物のように傍観するな

63.  雷らいの鳴る時、仰向あおむいて寝るな

64.  寒気の時、湯に入るな

65.  怪我と災難はバチと思へ

66.  物を拾ひ、身に付けるな

67.  冬は物を取り、始末をして置け *冬場は物を大切に保管し、浪費をするな

68.  若い内は寝ずに稼げ

69.  年寄ったら楽をしろ

70.  折々に寺参りをしろ

71.  身寄りのない人を労いたは

72.  小商物こあきなひを値切るな *薄利の商売では値切るな

73.  風吹きには舟に乗るな

74.  何事も身分相応にしろ

75.  身持ち女は大切にしろ *妊婦は大事にしろ

76.  産後は、なほ大切にしろ

77.  小便は小便所へしろ

78.  泣き言を言ふな

79.  病気は仰山にしろ *病気は大袈裟に思え(軽々しく思うな)

80.  人の気を揉む時、力を付けてやれ

81.  悪しき事も「よし、よし」と祝ひ直せ

   以上、八十一ヶ条

   上様や大名方は生きた神 滅多にするとバチが怖ひぞ

   我人と隔てのつくが凡夫なり 仲良くするが仏付き合ひ

     嘉永五壬子年九月吉日      施主 神田住

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●なお、本書は、大空社から刊行された。

『江戸版 親父の小言』 (小泉吉永解説、2013年、大空社刊 *B5判・本文16頁・定価本体500円+税)



(fuakiの日記 2013.08.24から編集)


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